あ
あやめちゃんがあやめたのは
あやめの花の咲くころでした
あやめるはずなどないひとなのに
やめる蓮の葉やぶるよに
あやあやあやと突いたのでした
あやめの花の散るさまは
あやしくなんかちっともなくて
あやういばかりに哀しくて
あやかりたいほど美しく
あやめたあやめのあやまちは
あやめの花のようでした
い
インコのウンコに腹をたて
陰険ばあさん窓をふく
因縁話をふれまわり
姻族からもはずされた
陰暦春の静かな晩に
隠者のごとくひっそりと
インコを遺して逝きました
う
うまれたてのおうまさん
うまからおちたおいしゃさん
うまくいきるのはどっちかな
うまいめしくうおとうさん
うまかたのいえのおかあさん
うまれてにるのはどっちかな
え
縁切り寺で遭いました
えんえん泣いてた幼子は
円描くように背に隠れ
延々続く汗の歩を
縁なき者の目をば持ち
遠景のなかに見ています
炎天続く夏の日に
お
おっぱいいっぱいあるですねえ
おっきいのやらちいさいのやら
おっとうのやらおっかあのやら
おっちゃんのやらおばちゃんのやら
おっくうがってつからずいたら
おっとくしゅんときましたです
か
かのなくようなかぼそい声で
かなさんあなたが好きなのですと
かれは突然いうのです
かんのきいてたとっくりが
からんとなった時でした
き
気が利いてるのは当たり前
きれいではない娘はサ
気立てのよさが身上だもの
気心知れた相手には
キッスのひとつも許さなければ
キンキン声のあばずれと
近所に噂が流れて終わり
く
踝あたりは
くるくる巻いた
踝あたりのこの傷は
苦しみぬいてもまだ痛む
胡桃のようにかたくなに
包まれすぎたせいかもしれぬ
狂ったように風が吹き
狂ったように雨が降り
踝あたりのこの傷は
苦しみ止まずにまだ痛む
け
けがはないかいそういって
けんか帰りに母はやさしく
稽古ごとにも追い立てず
毛糸笑いで夕餉のしたく
けんかのあとは悔しくて
剣玉などにもあたるけど
芸妓上がりのあの母を
決して泣かせてなるものか
こ
こんなことならこの子のことを
こんなふうには育てずに
こりた私の身の上を
これこんこんと聞かせてやって
こうすりゃここからこうなって
こんな事態になるんだと
こんまけするまで説き伏せて
こんがらがらせてそのすきに
こうかいさせてもかまわずに
こうげんさせてそのままに
ころがる道を行かせてりゃ
こんがんせずともすんだもの
こんな悲喜劇繰り返し
こっかは今日もご安泰