本作は、音楽家 古賀久士さんのLIVEで行った朗読用に書き下ろしたものです。
ワーキング・マザーのための詩作品です。
プロローグ
風は歌うのです。
こわばった頬を やさしくなでながら。
気がかり。 いらだち。 悲しみさえも。
すべては 手放せるのだと。
雲はささやくのです。
ビルの隙間から 青空を覗かせながら。
名前も。手柄も。常識さえも。
すべては 捨てられるのだと。
虹は微笑むのです。
あるままで。
そのままで。
ただ ただ 素晴らしいのだと。
あなたは 今を 生きているから。
♯1
あの頃
毎日が ヒリヒリと肌を火照らせ
こころが 情熱と冷酷を繰り返していた頃
私は 母が大嫌いだった
もちろん 自分も
鏡を見るたび 泣きたかったり 腹がたったり
いつも誰かと比べてた
欲張りで 寂しがりやで強がりで
お母さん
娘を見るたび あなたを思い出します
誰かをほめながら あなたを思い出します
誰かをしかりながら あなたを思い出します
あなたは 明日の 私だったから
♯2
恋できれいになるなんて
流行り歌でもあるまいに
秘めた思いは とこしえの
光当たらぬ 月影の
終わりなき夜の 焦がれ歌
狂おしき 肌の赤みの ねたましき
あの背にもたれ 泣いた夜に
この身が知った罪深き
悦びの後の 虚しさよ
恋で繰る日が色づくなんて
気障なせりふじゃあるまいに
いつかは終わるものだから
いついつまでも続けたい
きっと涙のこのつぼが
あふれてこぼれて枯れるまで
私は「ワタシ」を生きていくから
♯3
春は桜の並木道 通いつめてはヒールを減らし
夏は日傘の蝉時雨 思いをかなえて祝杯上げて
秋は青空いわし雲 行き違いから頭を下げて
冬は小雪の石畳 励み励まし仲間と集い
どこまで行っても一人だけれど
どこにいたって友は友
汗して歩いて 泣き笑い
もしもあの時 思ったところで切りがない
せめてこの時 思い直せば身も浮かぶ
誰といたって一人だけれど
笑顔を交わせば 人と人
明日吹く風に 任せよう
私は 生かされているのだから
♯4
私が涙にくれるとき
南の島では ハイビスカスの花が咲く
私が不安で眠れぬとき
北の浜では アザラシが求愛の唄を歌う
ままならぬ者を憎むとき
銀河の果てでは 光とともに星が生まれる
灰色のため息をつくとき
明け方のサバンナで ヌーの一群が大移動を始める
くじけて座り込んでしまうとき
誰かの荷物でよろめいてしまうとき
老いた親の寝顔を ぼんやり思い浮かべるとき
何万光年の過去から 数え切れぬ白光が届き
ちっぽけなワタシを かすかに照らす
星の光は過去から届く 私の光は未来へ続く
受け入れよう 流されよう
時間という名の わが身の定めに