001 くらし


夏と金魚とひな祭り


 世は空前の癒しブーム。安らぎの観賞魚といえば熱帯魚が人気だけれど、夏の江戸風情にひとときまどろむなら、やっぱり金魚。団扇片手の昼下がり、ギヤマンの球形器にたゆたう水草、行き交う舞を眺めれば、暑さのいらだちも、揺らめく涼とともにどこかに失せてしまうはず。中国の揚子江下流域で、フナの突然変異により誕生したという金魚。室町時代中期、日本へと伝わり、かつては大名たちに珍重された贅沢品だったとか。江戸時代には鑑賞魚として庶民に流行。「きんぎょぇ~きんぎょぉ~」の呼び売り声で、天秤棒にたらいを提げ、ご存知の金魚売が姿を現したのは江戸時代後期になってから。

 金魚は夏の季語ながら、東北や関東地方では、桃の節句の雛壇を飾る品々のひとつとして、金魚を飾る風習があったといいます。この時期の金魚は「新雛」と呼ばれ、縁起物として人気を集めました。そのエピソードから、日本鑑賞魚振興会(※)が中心となり、3月3日を金魚の日に制定。ちなみにギヤマンとは、ダイヤモンドを語源に生まれたガラスの別称。表現次第で涼が増すのも言葉の妙。ギヤマンの金魚鉢も、もちろん夏の季語です。

(初出「大人のくらし/風流生活デッサン」を加筆)

※H22年に休会。同会の事業は、日本観賞魚振興事業協同組合に移行されています。